0からはじめる雅楽入門 – 雅楽器の種類

0からはじめる雅楽入門 - 雅楽器の種類

雅楽器には大きく3種類の楽器があります。

  • 管楽器
  • 絃楽器(弦楽器)
  • 打楽器

管絃の合奏では「三管、三鼓、両絃(二絃)」の8種類が中心です。

宮内庁楽部の演奏会にならった16人編成が通例。内訳は管楽器 各3人(9人)、弦楽器 各2人(4人)、打楽器 各1人(3人)の16人編成ですが管楽器および弦楽器は人数変動あり。このうち管楽器の人数が変動する場合、各管楽器の人数に応じて「一管通り、二管通り、三管通り」などと呼び名が変わります。

三管(さんかん)

雅楽における三管とは、次の3種類の管楽器を指しています。

  • 鳳笙(ほうしょう)/笙(しょう)
  • 篳篥(ひちりき)
  • 龍笛(りゅうてき)/横笛(おうてき)

鳳笙/笙、龍笛/横笛など呼び方はひとつではありません。それぞれの楽器は天、地、空の音を表現していて、合奏により宇宙を創造できると考えられていました。

  • 笙  - 【天】天から差し込む光
  • 篳篥 - 【地】地上にこだまする人の声
  • 龍笛 - 【空】天と地の間、空を翔ける龍の鳴き声

それぞれの楽器に意味や目的があるのは東洋らしい発想といえるかもしれませんが、この意味を知ってなお「なるほど」と思えてしまう音色だから驚きです。

鳳笙/笙(ほうしょう/しょう)

直径1cmほどの竹管を17本束ねて頭(かしら)に立てた形状が特徴的。これは伝説の鳥 鳳凰が羽を立てて休む姿を表しているといわれ、鳳笙と美称されます。優雅で透きとおった音色が表すのは「鳳凰の声」「天から差し込む光」です。

  • 主旋律を担当する篳篥(ひちりき)に正確な音程を示す
  • テンポや流れをリードする
  • 篳篥や龍笛のブレスタイミングを示す

笙は「合竹」(あいたけ)と呼ばれる和音を奏で、日本の音楽では珍しい和声(ハーモニー)を担当することが多い楽器です。上記で挙げた役割も相まってベースやドラムなどのイメージがありますが、曲目によっては「一竹」(いっちく)と呼ばれるメロディーを担当するなど幅広い役割を担います。

17本ある竹管のうち「簧」(した、いわゆる「リード」)が付いているものは15管しかなく、2管は音が鳴りません。かつては17管すべてにリードが付いて音が鳴っていましたが、使われなくなったために失われたと考えられています。

笙は吹いても吸っても音がなるハーモニカのような構造ですが、リードが1つしかないフリーリード構造です。普通のハーモニカは吹くときに鳴るリードと吸うときに鳴るリードが2つ付いたダブルリード構造のため異なる音が鳴りますが、笙は吹いても吸ってもなる音は変わりません。

音は変わりませんが、私がいる雅楽会の笙担当者いわく「吹く音から吸う音に切り替わるときに同じ音を出すのが中々難しい」のだそう。

篳篥(ひちりき)

最も多く用いられるするダブルリードの縦笛で、雅楽のほとんどの曲目で主旋律を担当。

  • 音程は1オクターブほど出せない
  • 同じポジションを押さえても息づかいや唇の位置で音高が変化してしまう

音域が狭く不安定な楽器ながら、この特性を生かす篳篥の代表的な奏法「塩梅」(えんばい)などを用いることで、まるで歌っているような自由で表現豊かな音色を奏でられます。全長約18cmと小柄ながら、見た目に反した大きく力強い音色が表すのは「地上にこだまする人々の声」です。

塩梅奏法とは、口腔内の容積を変化させたり息づかいに強弱を持たせたりしてポルタメント的な演奏するための技法のこと。唇の締め方を調整して本来の音程より少し低い音から探るように演奏することで「こぶし」のような装飾ができ、独特な雰囲気が出ます。

龍笛(りゅうてき)

篳篥とともに主旋律を奏でるもののリードヴォーカル的役割の篳篥とは違い、はるかに広い音域を生かした装飾がメイン。篳篥では出せない音をカバーして旋律を豊かに彩りつつ、篳篥とのユニゾンを奏でます。

  • 管絃や舞楽は装飾的役割
  • その他は主旋律

低音から高音まで自由自在、縦横無尽に鳴る龍笛の音色はまさに「天空を自由に翔ける龍の鳴き声」。古くから貴族や武将などに好まれた龍笛は、源義経や清少納言などさまざまなエピソードが残されているのも特徴です。

また、雅楽では曲目によって龍笛以外の横笛も用いられます。神楽で用いられる神楽笛、高麗楽(こまがく)で用いられる高麗笛があり、前者は龍笛より1音低く、後者は1音高い音程です。

三鼓(さんこ)

雅楽の打楽器は全部で10種類以上ありますが、そのうち最もよく使われる組み合わせを「三鼓」といい、次の3種類を指します。

左から「鉦鼓」「太鼓」「鞨鼓」
  • 釣太鼓(つりだいこ)/太鼓(たいこ)
  • 鉦鼓(しょうこ)
  • 鞨鼓/羯鼓(かっこ)

鞨鼓(羯鼓)演奏者が洋楽でいう指揮者。全体のテンポや曲の終わりをコントロールする重要な役割を担っているため、楽長などベテラン奏者が担当するのが基本です。

釣太鼓/太鼓(つりだいこ/たいこ)

太鼓といえば問題なく通じますが正式には「釣太鼓」といい、管絃の演奏で用いられます。舞楽では本来「大太鼓」(だたいこ)を使いますが、直径2mを超える巨大な太鼓を使うには正式な舞台が必要なため釣太鼓で代用されることが増えています。

鉦鼓(しょうこ)

「鼓」とついているものの太鼓ではなく金属製の鉦(かね)です。囃子などでも使う摺鉦(すりがね)を太鼓より小ぶりな木枠に吊り下げた構造をしています。太鼓同様に鉦鼓も管絃で用いる楽器です。舞楽では本来「大鉦鼓」(おおしょうこ)を用いますが、こちらも太鼓同様の理由で鉦鼓を用いことが増えています。

鞨鼓(かっこ)

管絃および左方の舞楽で用いられ、テンポを決めたり終わりの合図を出したりする役割があります。見た目のインパクトがあって最前列中央に位置する太鼓がリーダーに見えますが、実は鞨鼓が最も重要な打楽器であり指揮者です。

三鼓以外の打楽器

三鼓というと主に上記3種類の打楽器を指しますが、曲目によっては以下の2つも加わります。

三ノ鼓(さんのつづみ)
右方の舞楽で用いられる打楽器。イメージどおりの「鼓」の形をしていて、鞨鼓と同じ役割を担います。
笏拍子(しゃくびょうし)
神官が持っている笏(しゃく)を2つに割ったような形状をしていて、歌い手が全体の速度(拍子)を決めるために打つ楽器です。催馬楽(さいばら)および誄歌(るいか)以外の国風歌舞(くにぶりのうたまい)で用いられます。

また、ほかにもたくさんの打楽器があるので紹介しておきましょう。

雅楽舞台の舞楽 道楽(みちがく) 船楽(ふながく) 舞楽の小道具
  • 大太鼓(だだいこ)
  • 大鉦鼓(おおしょうこ)
  • 荷太鼓(にないだいこ)
  • 荷鉦鼓(にないしょうこ)
  • 船楽用太鼓
  • 壱鼓(いっこ)
  • 鶏楼鼓(けいろうこ)
  • 振鼓(ふりつづみ)

大太鼓、大鉦鼓は三鼓の紹介でも登場しました。道楽とは行進しながら雅楽を演奏する形態、船楽は船に乗って演奏する形態のことです。釣太鼓、大太鼓、荷太鼓、船楽用太鼓の4つを総称して「楽太鼓」(がくだいこ)といいます。

両絃(二絃)

両絃とは次の2つの弦楽器をいいます。

  • 楽琵琶(がくびわ)
  • 楽筝(がくそう)

演奏者は一定の音形を演奏することで拍(はく)を明確にするほか、メロディーやアルペジオによる伴奏が主な役割です。

楽琵琶(がくびわ)

4絃4柱(4げん4じゅ)の絃楽器。柱はフレットを意味していて、要するに4弦4フレットの弦楽器です。「俗琵琶」(薩摩、筑前、平家などの琵琶)と区別するために「楽琵琶」と呼びます。俗琵琶に比べて小さいのが特徴で、用いるのは管絃および催馬楽のみです。

楽琴(がくそう)

生田流、山田流などの俗箏と区別するために「楽筝」(がくそう)と呼びますが、いずれの琴もほぼ違いはありません。そもそも俗箏を元に改良したものが楽筝とされ、本体および弦の本数や材質も同じです。違いは楽筝の弦が少し太めに作られていることと、指にはめる爪(つめ)と呼ばれる道具。楽琵琶同様、管絃と催馬楽でのみ用いられます。

現在、琴(こと)と聞いてイメージするのは上の写真の楽器でしょうが、実はこの写真の楽器は琴ではなく「箏」(そう)という楽器で、奈良時代に中国から伝来しました。ちなみに「琴」(きん)という楽器も同時期に伝来したとされていますがその後消滅。1946年の当用漢字で箏が制限され琴に代用されたため「箏」が「琴」になり、呼び方も「そう」から「こと」へ変化しました。

和琴(わごん)は位置づけが少々異なる

楽琵琶、楽筝と同じ弦楽器ですが位置付けがまったくの別物。数ある雅楽器の中で唯一の日本固有の楽器であり「天皇の楽器」といわれるほど高貴で、用いるのは古からの順日本歌曲である国風歌舞のみです。

  • 倭琴(やまとごと)
  • 御琴(みこと)
  • 鵄尾琴(とびおごと)
  • 東琴(あづまごと)
  • 六絃琴(ろくげんきん)
  • むつのを
  • 神琴 ※読み方不明
  • 天詔琴(あめののりごと)
  • 書司(ふんのつかさ)
  • 御多奈良之(おんたならし)

など、いわれや別名などが数多く残っています。

古くは榛(はしばみ)や檜を使ったて本体を作ったようですが現在は桐です。絹絃6本、天然の楓の二股になった枝をそのまま使った柱(じ)を使って構成され、水牛の角で作った「琴軋」(ことさぎ)と呼ばれるピックで演奏します。

曲目ごとに使われる雅楽器

国風歌舞
笏拍子、和琴、篳篥、神楽笛(倭舞、神楽)、高麗笛(東遊)、中管(東遊)、龍笛(五節舞)
管弦(管絃舞楽)
羯鼓、楽太鼓、鉦鼓、笙、篳篥、龍笛、楽琵琶、楽箏
羯鼓、楽太鼓、鉦鼓、笙、篳篥、龍笛、楽琵琶、楽箏
羯鼓、大太鼓、大鉦鼓、笙、篳篥、龍笛
高麗楽(右方)
三ノ鼓、大太鼓、大鉦鼓、篳篥、高麗笛(明治撰定譜には右方の楽琵琶と楽箏の譜が残されているが近代に入ってから演奏に用いられたという記録はない)
催馬楽、今様
笏拍子、笙、篳篥、龍笛、楽琵琶、楽箏
朗詠
笏拍子、笙、篳篥、龍笛
浦安の舞(参考)
笏拍子、または楽太鼓(一般の和太鼓もok)、和琴、または楽箏(生田流等の箏もok)、篳篥、神楽笛

雅楽および雅楽器に込められた人々の思いに驚くばかり

たとえばピアノ。現在は誰もが知っている代表的な楽器のひとつですが、この原型となった楽器はチェンバロといわれ、11世紀のダルシマー、14世紀のクラヴィコードなどを経て1500年頃にイタリアで生まれたとされます。

この時点ですでに基本的な機構は出来上がり現在のピアノと非常に近い形だったようですが、チェンバロの弱点だった音の変化(強弱)の乏しさを改善するために1700年頃イタリアのクリストフォリ(1655~1731)が発明したメカニズム「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」(弱音も強音も出せるチェンバロ)によって現在のピアノの形が完成したそうです。

そもそもピアノという名前はクリストフォリが開発したメカニズムの略称に過ぎないことも驚きですが、その歴史がわずか300年足らずしかないことにも驚くばかり。その点、雅楽器には1000年以上の歴史があるのですから重みが違うのは当然かもしれません。古から紡がれてきた日本の音楽、楽器の意味や重要性を痛感しました。

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